ここ数年「酪酸菌」がとても注目されるようになりました。
「究極の善玉菌」とも呼ばれ、酪酸菌についての書籍も出版されて、酪酸菌のサプリメントが売り切れる時期もあったようですね。
今回のテーマは酪酸菌と便秘解消です。
腸は全身に繋がっていて、私たちの健康や心身の調和の要になる器官です。
腸内環境を整えることは、あなたらしく人生を生きるために、最も優先すべき課題の1つなのです。
便秘を解消するためには、サプリメントなのか食事の改善なのか、迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
- 酪酸菌の便秘解消効果とは
- サプリメントで酪酸菌を摂る時のデメリット
- 酪酸菌を増やす食生活とは
この記事を読んでもらえば、腸内の酪酸菌を増やすためにも、昔ながらの日本の食生活がいかに素晴らしいかを改めて理解していただくことが出来ると思います。
酪酸菌のミラクルパワーを探ってみましょう!
酪酸菌とは?
酪酸菌とは、腸内細菌の善玉菌の一種で「酪酸」を産生する細菌の総称です。
私たちの腸内には、1000種類以上、100兆個以上もの腸内細菌が存在すると言われています。
腸内細菌は、私たちが毎日食べる食物の栄養素をエサとして増殖しますが、悪玉菌が増殖する食物、善玉菌や酪酸菌が増殖する食物など様々です。
つまり毎日の食習慣が、私たちの腸内細菌に大きな影響を与えていることを理解しておく必要があります。
では次に、私たちの腸内に生息する3つの主な善玉菌を確認しておきましょう。
酪酸菌・ビフィズス菌・乳酸菌の違い
腸内の善玉菌には主に、ビフィズス菌、乳酸菌、そして酪酸菌があり、主な違いは下表の通りです。
酪酸菌 | ビフィズス菌 | 乳酸菌 | |
腸管内で定着する主な場所 | 大腸 | 大腸 | 小腸 |
大腸内での菌数 | 2~5% | 100億個以上(便1g辺り) | 1000万~1億個(便1g辺り) |
特性 | 酸に強い | 酸に弱い | 酸に弱い |
代謝物 | 酪酸 | 乳酸+酢酸 | 乳酸 |
酸素に対する性質 | 酸素を必要としない | 酸素があると生育できない | 酸素があっても生育できる |
注目すべきは、酪酸菌だけが「酸に強い」という性質を持っていることです。
酪酸菌は「芽胞」と呼ばれる植物の種のように身を守るバリアを形成し、胃酸だけではなく熱や抗生物質などに対して抵抗性を持つことから、生きて大腸まで届きやすいと言われています。
では酪酸菌は、腸内でどんな働きをしてくれるのでしょう。便秘を改善する効果はあるのでしょうか。
参考:酪酸菌について|ミヤリサン製薬
乳酸菌|e-ヘルスネット
ビフィズス菌|e-ヘルスネット
酪酸菌には便秘解消の効果がある
酪酸菌には便秘解消の2つの効果があります。
- 酪酸菌が善玉菌に有利な腸内環境を作る
- 酪酸菌が産生する酪酸が蠕動運動を促進
それぞれ解説していきます。
酪酸菌が善玉菌に有利な腸内環境を作る
酪酸菌は善玉菌にとって有利な腸内環境を作ることで、便秘の改善を助けます。
酪酸菌が作り出す酪酸は、酸素を消費させて腸内の酸素濃度を下げることが報告されています。
酸素濃度は腸内細菌の生育に深い関係があり、腸内の酸素濃度が薄いと善玉菌が増えやすく、酸素濃度が濃いと悪玉菌が増えやすいのです。
こうして酪酸が作り出す酸素濃度が低い腸内環境が、善玉菌を活性し便秘の改善に繋がるのです。
酪酸菌が産生する酪酸が蠕動運動を促進
酪酸菌が腸内で産生する酪酸(短鎖脂肪酸)が、腸管の蠕動運動を促進させることで、便秘を改善させます。
短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が良質なエサを食べて作り出す代謝物です。代謝や免疫、メンタル等の働きをサポートします。
このように便秘改善効果のある酪酸菌ですが、腸内で数を増やすにはどうしたら良いのでしょうか。
腸内の酪酸菌を増やす方法
腸内の酪酸菌を増やす方法は2つあります。
- サプリメントで摂取する
- 食事から腸内にいる酪酸菌を育てて増やす
サプリメントは一時的に腸内の酪酸菌の数を増やす方法です。
一方で食事から酪酸菌を育てるのは、長期的に酪酸菌の数を増やす方法です。
ではそれぞれの違いをみていきましょう。
サプリメントで摂取する
酪酸菌をサプリメントや整腸剤で摂取する方法は手軽で、便秘を解消する効果を期待出来ます。
酪酸菌は腸まで届きやすく、抗生物質への抵抗性もあり、医師が最も多く処方する整腸剤のようです。
一方で、下記の2つの特徴があります。
- 菌の数が少ない
- 定着せずに腸内を通過していく
このような2つの特徴から、サプリメントや整腸剤の酪酸菌からは下記のメリットを充分には得にくいことと、効果を維持するには飲み続ける必要があることを理解しておきましょう。
では、長期的に安定して酪酸菌の数を増やすにはどうしたら良いのでしょうか?
食事から腸内で自分の酪酸菌を育てて増やす
私たちは腸内に酪酸菌を既に持っていて、毎日の食事を工夫することで数を増やしていくことが出来ます。
腸内の酪酸菌にとって良質なエサとなる食物繊維を食事から摂りましょう。
すると、腸内の酪酸菌の活動が活発になり長期的に安定して数が増えていきます。
さらに日本人は世界と比較しても、腸内の酪酸菌の数が多い特徴があるので、自前の酪酸菌を活かせば良いのです。
なぜ日本人の腸内には酪酸菌の数が多いのでしょう。
腸内細菌は食物の栄養素をエサにして増殖することを初めに紹介しましたが、食文化の違いによって腸内細菌の特徴にも地域差や民族差があるのです。
例えば海藻の海苔を分解する細菌は日本人の90%が持っていますが、世界各国では15%程度が平均です。
日本の昔ながらの食文化が、日本人の腸内の酪酸菌を
育てて増やしてきたのですね。
では次に、酪酸菌を増やす食物繊維をご紹介します。
腸内の酪酸菌を増やして便秘を解消する食事
酪酸菌を増やす水溶性食物繊維
食物繊維には水溶性と不溶性の2種類あり、その違いは下記の通りです。
- 水溶性食物繊維:ヌルヌルして保水性が高いのが特徴。糖分の吸収速度をゆるやかにするので、食後の血糖値の急激な上昇を抑えてくれる。
- 不溶性食物繊維:水に溶けにくく、水分を保持し、便のかさを増やして排便を促す作用がある。
酪酸菌の良質なエサとなるのは水溶性食物繊維です。
また、水溶性食物繊維を多く含む食品には下記が挙げられます。
海藻 | 昆布 ワカメ ヒジキ 海苔 |
穀類 | 玄米 もち麦 大麦 |
野菜 | にんにく 玉ねぎ ゴボウ オクラ 春菊 さつまいも ブロッコリー かぼちゃ 大根 人参 きのこ類 豆類 |
果物 | レモン アボカド キウイ いちご プルーン りんご バナナ |
参考:食物繊維|e-ヘルスネット
食物繊維の必要性と健康|e-ヘルスネット
発酵性食物繊維でさらに効率アップ
酪酸菌を増やす食物繊維の中でも、酪酸を作り出し菌の数を増やす力(発酵力)には違いがあります。
発酵性食物繊維とは、発酵力が強く腸内で善玉菌のエサとなって、より多くの代謝物を産生し、菌の数を増やす食物繊維のことです。
積極的に摂取することで、さらに効率的に酪酸菌を増やせますので意識してみましょう。
種類 | 食品名 | 発酵性食物繊維量 (g/100g) |
穀類 | もち麦 | 6.8 |
大麦(押麦) | 6.0 | |
玄米 | 1.1 | |
野菜類 | にんにく | 12 |
玉ねぎ | 5.0 | |
ゴボウ | 2.3 | |
海藻類 | 昆布 | 3.7 |
きのこ類 | なめこ | 1.0 |
えのき | 0.7 | |
豆類 | 金時豆 | 3.3 |
大豆 | 1.5 | |
果物類 | レモン | 2.0 |
アボカド | 1.7 | |
キウイ | 0.6 |
その他:「酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる」より抜粋
玄米ご飯と味噌汁で酪酸菌を育てよう
酪酸菌を育てる水溶性食物繊維(発酵性食物繊維)は、穀物や海藻や野菜など昔ながらの日本の食生活なのですね。
長期的に安定して便秘を改善するために一番大切なことは、やはり毎日の食事です。
そこで、酪酸菌を育てる食事のシンプルな3つのポイントをお伝えします。
- 主食は玄米、または雑穀米
- 味噌汁は水溶性食物繊維たっぷりに
- 果物は空腹時に旬の地物を
主食は玄米、または雑穀米
まずは毎日の白米を、玄米ご飯に代えてみましょう。
これだけでもう、体が以前より軽くなるのを実感出来るはずです。
もち麦などの雑穀を混ぜた玄米雑穀ご飯なら、さらに良いですね。
玄米ご飯に慣れない方は、分づき米にもち麦等を混ぜるのもおすすめです。
私の娘がお正月等の食生活の変化で一時的に便秘になった時、様々なサプリメントでは変化がなく、快便に戻してくれたのは玄米ご飯でした。玄米ご飯の便秘改善効果はすごいです!
味噌汁は水溶性食物繊維たっぷりに
次に、味噌汁を水溶性食物繊維たっぷりになるよう工夫しましょう。
だしには、昆布入りの物を使うといいですね。
玉ねぎ、大根、ごぼう等の野菜とえのきやワカメを入れて、具沢山の味噌汁にしましょう。
玄米ご飯と味噌汁の毎日の基本セットはとてもシンプルな方法ですが、体も腸もそして心も、確実に変化するのでぜひお試しください!
果物は空腹時に旬の地物を
さらに、果物が好きなら空腹時に果物だけを食べるのがおすすめです。
果物は酵素がたっぷりなので、胃の中が果物だけの場合は、短時間で消化されて腸内へとたどり着き、排便を促す作用があります。
食後に果物を食べると、他の食物と混ざって消化に時間がかかるので、この排便促進作用は発揮されません。
逆に食後の果物は、消化不良を起こすこともあるので気をつけましょう。
朝は空腹のチャンスですね!
南国の果物は体を冷やすので、その土地の季節の旬の果物がおすすめですよ。
酪酸菌を増やすその他のメリット
腸内の酪酸菌を増やすことは、便秘解消効果の他にも様々なメリットがあります。
大腸のバリア機能を高める
腸漏れ(リーキーガット)を予防する
さらに酪酸は、腸の結合部分を強くし、漏れていた腸を復活させてバリア機能を回復させることも報告されています。つまり酪酸は、腸漏れを予防するだけでなく改善するのだと記載されています。
腸漏れとは、腸の粘膜上皮細胞の結合部分(タイトジャンクション)が緩んで小さな隙間ができ、腸から体内へと有害な細菌や毒素、未消化の食物が漏れ出す状態で、様々な病気の原因となります。
参考:「すごい酪酸菌」江田証
大腸がんの発生を抑える
参考:「すごい酪酸菌」 江田証
免疫強化
酪酸菌が作り出す酪酸には、免疫の過剰な反応を抑制するブレーキの役割をする細胞を増やす働きがあると報告されています。
酪酸を与えたマウスの腸炎が軽症化したという結果も得られており、炎症、アレルギーなどの過度な免疫応答を抑制する可能性があるそうです。
加齢による筋肉量の低下を軽減
参考:「すごい酪酸菌」 江田証
酪酸菌を増やすデメリット
このように多くのメリットを持つ酪酸菌ですが、下記のように過度になり過ぎるとデメリットもありますので、気を付けましょう。
小腸内で細菌が増え過ぎて不調を起こすSIBO(小腸内細菌増殖症)と呼ばれる疾患があります。
酪酸菌も同様に、便秘を治したいからとサプリメントを大量に飲み過ぎるのは禁物です。
また発酵食品のヨーグルトや納豆を、毎日大量に食べ過ぎるのも良くありません。
酪酸菌を直接摂り入れることよりも、良質な食事で育てることを意識して取り組みましょう。
参考:腸活や菌活をする前に知っておきたいSIBOとは|国立消火器・内視鏡クリニック
まとめ
いかがでしたか。酪酸菌には便秘を改善する効果が期待出来ます。
ただし腸内環境は一人一人違うので、ご自身に合うかは実際に試してみると良いですね。
腸内での酪酸菌の数を増やすためにサプリメントで摂るのは手軽ですが、数が少ないうえに、腸内に定着しないことを理解しておきましょう。
私たちは腸内に酪酸菌を持っているので、酪酸菌の良質なエサとなる水溶性食物繊維を食事から摂り、自前の酪酸菌を育てて増やしていきましょう。
日本の昔ながらの食生活でもある玄米ご飯や、海藻・野菜がたくさん入った味噌汁がおすすめです。
腸内環境も私たちの体も、毎日の食事で作られています。食生活を整えることは、健康に生きるために最も大切なことですね。ぜひお試しください。